2010年にWHO(世界保健機構)が定めた精液検査の基準値は以下になります。
この基準値を元に医療機関は精子の状態を判断していますが、数値が良いからといって安心はできません。以下の数字は妊娠できた人の下位5%の数字です。これら一つでも下回ると妊娠確率が5%だと考えると年間12回しか排卵が訪れない女性に対していかに妊娠が難しいことか理解できると思います。

① 精液量   1.5ml以上
② 精子濃度  1500万/ml以上
③ 運動率   40%以上
④ 総精子数  3900万以上
⑤ 正常形態率 4%以上

ちなみに精液の簡易検査では「④運動率」はわかりません
男性不妊をあまり取り扱わない泌尿器科では精液検査をする設備が整っていないところが多く、外部の検査業者に精液検査を委託します。精子は時間が経つと運動率が下がってしまうため、外部の検査業者では④運動率が正確に検査できません。
④運動率を検査しようとすると院内に精液検査の機材が必要なのはもちろんのこと、素早く検査をする人手が必要です。検査には30分程度時間がかかるので人手が確保できない医療機関では④運動率を計測することができないのです。

もう一つ、最近注目されているのが精子のDNA断片化率を測定する「DFI検査」です。
精子は酸化ストレスなどのダメージを受けると精子の DNA が損傷すると言われています。この損傷したDNAを持つ精子の割合を DNA 断片化指数(DFI:DNA fragmentation index)と言い、どの程度の割合で精子のDNAが損傷しているのかを調べることができます。
DFI検査についてはNHKスペシャルで大きく話題になったのも記憶に新しいのではないでしょうか。

運動率もDFI検査も専門性の高い医療機関でないと実施していません。また精液所見は毎回大きく変化するので精液所見の傾向を把握するには2回以上の検査が必要です。たまたま検査した数値がよかったからといって安心して不妊治療を続けていたら、実は酷い男性不妊だったという可能性もあります。

男性が積極的に精液検査を実施し、精液の精密検査ができる医療機関が増え、夫婦が一緒になって不妊治療に取り組む社会づくりが必要です。

参考資料
→ WHO精液検査マニュアル(日本語訳) (P.261)
→ 「NHKスペシャル ニッポン “精子力” クライシス」
→ 精子だって見た目だけじゃない!!~精子DNAの損傷が胚の発生に及ぼす影響~